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2012年9月 5日 (水)

警官の涙 3

  
  
  
警官の涙は、2でいちおう完結のつもりだった(日記上は)のですが、みなさん興味深く読んでくださったので、もう少し続きを書いてみたいと思います。

もし、自分の愛する家族が誰かの手によって殺害されたなら・・・・。そんなことは考えたくもないのですが、当然、加害者が憎い、厳罰にして欲しいとそのときは思うと思うのです。

しかし時間が経つにつれ、事件のことも犯人のことも忘れて(赦して)しまいたいという感情もきっと芽生えてくるのだと想像するのです。

心の中を憎しみという感情で一杯にすることが辛くなるからです。

光(愛、赦し)を求めるからです。

どうしたら人間は、憎しみを赦しに変えることができるのか?

出来ないのか?

その辺の人間の心理状態を、本文からもう少し探ってみましょう。






「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんして下さい、坊ちゃん。そんな事をしたのは怨みがあってしたのではありません。逃げたさの余り恐ろしくて気が狂ったのです。大変悪うございました。何とも申し訳もない悪い事を致しました。しかし私の罪のために私は死にます。死にたいです。喜んで死にます。だから坊ちゃん、憐れんで下さい、堪忍して下さい」

子供は無言のまま泣き続け、警部は犯人を引き起こし、二人が歩きはじめると群衆は左右へ分かれて道をあけた。

すると突然に 「全体の群衆」がいっせいにすすり泣きをはじめた。

と同時にハーンは、犯人をつれて歩く警部の顔に涙を認めて大きな驚きをもった。  ・・・・・・・・・・・・・・前日記までの続き


「私は前に一度も見た事のない物、めったに人の見ない物、恐らく再び見る事のない物、即ち日本の警官の涙を見た」

群衆が引き上げていくなか、ハーンは

「この光景の不思議な教訓を黙想しながら」一人その場に立ち続けていた。

ハーンは、この場には「罪悪の最も簡単なる結果を悲痛に示す事によって罪悪を知らしめた容赦をしないが同情のある正義」があった。

犯人には 「死の前に只容赦を希(ねが)う絶望の悔恨があった。

・・・・・中略・・・・

大いなる罪を犯した者がまちがいを悟り後悔しているんだなと、反省してみずからの行為を恥ずかしく思っているんだなと心から理解できたとき、人道にもとる凶悪犯人への怒りが消えて、その代わりに罪に対する悲しく哀れな気持ちでいっぱいになる ━ ハーンが目撃したのは、まさしくそうした日本人の心情倫理が息づくさまであった。


日本人がしばしば口にする 「罪を憎んで人を憎まず」 の言葉が、単によき理念を表す格言としてあったのではなく、日常の実際的な状況のなかに生きる倫理観としてあったことが、ハーンが語ったこの明治期の一エピソードからひしひしと伝わってくる。


このような日本人の心情倫理は今なお健在だろうか。

昨今のテレビ報道でしばしば耳に入るのは、

「どうか犯人を死刑にしてください」

「生涯、けっして許すことはできません」

といった犯罪被害者遺族たちの声である。

もし私が親兄弟姉妹を殺害されたとすれば、同じような言葉を吐くかもしれないと思う。

それは、現在の社会ではハーンが目撃したような場面を体験することが、

「けっしてない」とすらいえる現実と深くかかわっているのではないだろうか。

今では、犯罪者(の思い)と被害者遺族(の思い)が接点をもつことは許されない。

犯人に心からの「反省と悔恨」があると人づてに聞いても、身体で感じ取れる直接性を得ることはできない。

言葉だけ・・・・との思いから、いっそう受け入れられない気持ちが強くなるばかりだ。 とすれば、遺族たちはどのようにすれば、罪人への憤怒の情から罪への悲哀の情へと移り変わることができるのであろうか。

また罪人はどのようにすれば、自らの「容赦を希う絶望の悔恨」を被害者遺族に伝えられるのだろうか。


ハーンが目撃した明治期の警部の 「はからい」 のような実際的な契機はなくとも、「罪を憎んで人を憎まず」 の気持ちは今なお日本群衆のものであり、当事者もまた、やがては日本群衆の気持ちに同化していく ━ 私にはそう信じられる。


犯人が死刑になろうが恨み続けようが、亡くなった者は帰ってこないけれども、人は死ぬと神となり仏となり、この世の一切の善悪を超えた存在となる。

こうした鎮魂への思いが強ければそれだけ 「罪を憎んで人を憎まず」 の平穏なる気持ちへ至ろうとするのではないだろうか。

死者の供養に一切を許していこうとする日本人は今も健在だと私は思う。





 なぜ世界の人々は「日本の心」の惹かれるのか 呉 善花 PHP


  

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